なんとなく、という辺りまで歩いたケンは、楓のアパート近くまで来ていた。
しかし、真近まで来てから足を止めたケンは思い直す。
ただの同僚の不調に、わざわざ押し掛ける必要はあるのか。
電話を掛けて、少し声を聞けばそれだけで済む話の筈なのに。
けれど――――それだけじゃ、気が収まらないこの感情は、紛れもなく嫉妬だ。
楓に対するこの思いは、友人としてのものを超えている。
ケンは歩いている間も、ずっとそれは考えていたこと。
だけどもうここまでやってきた。
そんなことを理由に、思い切って電話をかけた。
『プルルル……』という呼び出し音の間にシミュレーションをする。
(まずは体調がどうだか聞いてみよう。それから、なんか必要なモンがないか聞いて、それから――――堂本さんが、まだいるのかを……)
先々まで考えてしまう癖は、昔から。
ある程度のことを準備しておかなければ不安になってしまうから。
「――――人として、アイツが好きなんだ」
ケンは耳元でコール音を聞きながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
そしてそれから3コール後に、耳元で『はい』と、楓の短い返事が聞こえてきた。
ケンはその声で、さっきまでのシミュレーションが一気に消えてしまった。
「お、おぉ……」
切羽詰まったケンが、苦し紛れに口にした言葉。
「今からシュウんちに行きたいんだ……け、ど」
予定外の流れにしたのは自分自身。
ケンは、目を閉じて楓の返事を待つのみだった。