「“弟が出来た。姉である私が守ってあげなきゃ”って思ってたのに、いつも守られてるのは私だった。それは今でも変わらなくて」


ランドセルを背負った幼い圭輔を、16(今)の圭輔の姿と重ねる。


「それがずっと、引っかかってた」


自分の存在が、圭輔にとっての足枷でしかないのでは――そう思って心が苦しかった。


「気にしなくていい……! オレがしたくてしてるんだ!」
「うん。ありがとう。でも、結局なにも変わらない」


いつでも怯えて生きていた。
自分の存在を否定することが日常だった。

唯一の愛する家族(弟)すらも、自由にさせてあげられない。

そんなことを頭で考え、心で謝るだけで、何も変わってやしなかった。


「姉ちゃん、なにを――――」
「逃げてるだけだったの。ずっと、圭輔の影に隠れて、息を潜めてた」
「だから、それは別にいいって」
「だけど、一生そんなんでいいわけない」


臆病で弱虫な自分。

それが当たり前だったし、変わればいいのにと他力本願だっただけで、自ら変えようとしたことはなかった。

そんな自分が、勇気を出して家を飛び出したあの日。

堂本はなんとも思っていないだろうが、楓にとっては人生を変える程の運命の出逢いだと思ってる。


「自由になろう、圭輔」


それは別れの言葉ではない。

“共に闘って、強くなろう”の意味。

本当の自由を手に入れる為に、逃げないで立ち向かおう。


楓の言葉と瞳には、力強くそんな気持ちが表れていた。


「“自由”――――」


圭輔が楓の言葉を反芻した。

ずっと、自分の傍に楓が居て、自分を頼ってくれればいい。

けれど、それは本当の幸せではないと、心のどこかで思っていた。
それと同時にこんな日がくるのも覚悟はしていた。


「姉ちゃん、オレ――」


圭輔が何かを言おうとしたそのとき、楓の携帯がそれを遮った。