「――――あれ……?」


知らぬ間に寝てしまっていた楓は虚ろな目で言った。

昨晩の出来事をもう一度脳内で整理し、堂本の存在を思い出した時に人の気配に気がついた。


(堂本さん?)


むくっと体を起こして、ベッドの足もとに背を向けて座っている人物に目を向けた。


「け、圭輔?!」
「……おはよう」
「えっ。い、いつから来てたの?」


楓の記憶に圭輔がやってきたというものはない。
同時に堂本が帰っていった記憶もない。

突然の弟の姿に楓は困惑する。

すると、そんな楓の心情を察して、圭輔が口を開いた。


「今朝(さっき)。オレの携帯からあいつが姉ちゃんにかけてたの気付いたから」


圭輔の言葉に、楓ははっとする。
しっかりとした圭輔のことだ。着信が昨日だけじゃなく、その前にも一度あったことも気がついたのだろう、と楓は息を飲む。


「なんで、すぐに言ってくれなかったんだよ」
「あ……ごめ、」
「――あの人がいたから、か」
「え?」

(『あの人』――? もしかして)


圭輔の横顔を大きな目で見つめて楓は気付く。

今日、ここで、堂本と鉢合わせしたのだ――と。


「あの、圭輔……」
「あの男、姉ちゃんのなに?」


真っ直ぐに見つめられて投げかけられた質問に、どう答えようかと考えながらも、楓は思う。


(堂本さんは、一切のことを口にしてなかったんだ。私がどうするか、決めさせるために)


自分が堂本とどう出逢い、この部屋のことや、ホストをしてることを。


「あの人は――――私の味方をしてくれる、人」
「味方……?」
「そう。圭輔と同じ」


楓は、自分を守ってくれる存在がいることで、心に余裕が出来ていた。
だから冷静に、圭輔と向き合って話をしよう、と思うことが出来た。


「圭輔が6歳でうちに来た時から――ずっと私の味方をしてくれてたよね」


そう言って、楓は遠くを見つめるようにして思い出す。