カチャリ、と最大限静かにしてドアノブを回す。
まるで泥棒に入るかのように、圭輔は僅かな隙間から滑りこむように部屋に入った。

玄関から真正面に見えるベッドには、姉の寝ている姿が確認できる。


「……」


楓の元に立つと、衣服を着用していることに、どこか胸を撫で下ろす。

堂本が言っていた通り、本当に寝たばかりのようで、圭輔の気配に気づくはずもなく、深い眠りについているのが見て分かった。


「――あいつ、姉ちゃんのなに……?」


目を閉じている楓に向かって小さな声で問う。

“聞こえてないから”、と安心しながらも、どこかで、“聞こえて欲しい”とも思っている。

圭輔は、ぴくりとも動かない楓を数秒見つめ、「ふーっ」と長い息を吐いてその場に座った。


(最近の姉ちゃん見てたらすぐにわかる。誰かを見てることくらい)


相変わらずスースーと心地いい寝息を立ててる楓を見上げるようにして、圭輔が漏らす。


「あいつか……」


玄関先でほんの少しだけ言葉を交わした男の存在が妬ましい。

それは堂本が大人で、話をした感じだけで言うと、余裕もあって――。
自分にはないものを持っている気がして、複雑な思いになる。


姉弟なのに。

こんなに姉に執着するのは、周りから見て奇怪に映るだろう。

そんなことは圭輔自身も分かっていた。
自分が姉である楓に執着し過ぎることで、楓までもそんな目で見られてしまう。

だから、“ちゃんと距離を置いて”弟をやっていた。

楓が出ていくその日まで。


そして、楓が遠くに行ってしまってもなお、圭輔にとっては特別な存在。

ずっと、ずっと――楓と出逢ってから。
圭輔は楓が全てだから。