「それじゃあ…」
「うん。また……いや、無理しなくていいから」
「ふふっ。それ、シュウいつも言うね?」
「あ、ごめん」
「んーん。また……来るね」


終始、楓の頭の中では絵理奈とリュウ、そしてケンのことがちらついていた。
それでもなんとか瑠璃との会話をこなして見送った。

瑠璃は楓に笑顔を向けて手を振る。そして、背を向けて扉を開けた。

外に出てもなお、賑やかな音のする街に向かって足を踏み出すと、さっきまでの楓の様子を思い返しながら階段を登り切る。

(なんだかシュウ、途中から様子がおかしかった気がするな)

ネオンが眩しい地上に出ると、DReaMの看板の前に立った。

小さく飾られてるリュウの写真を見る。


(あの人、確かこの人をテーブルに呼んでたな……)


そんなことを思っていると、今、自分が昇ってきた階段から男女の声がした。

なんとなく、瑠璃はくるりと背を向け顔を隠し、自然を装った。


「今日は悪かったな」
「ほーんと。かなり頑張ったのに」
「かなり?」
「そーよぉ。絵理奈の渾身の演技、リュウにも見せたかったよ」


声しか聞こえないが、だいぶ親しい雰囲気を瑠璃ですら感じる。

なんとなくその二人が気になって、瑠璃は携帯をいじるフリをして、その場に居座った。


「女はみんな、演技するけどな」
「ちょっと、それどーいうイミ?」
「いや、こっちの話」
「自分だって、女相手に相当“演技”してるくせに」
「くくっ……だから、似てるお前が一番いいんだよ、オレは」
「勘違いしないでよ? 別に絵理奈はリュウが一番なわけじゃないんだから」


耳を澄ませて会話を聞き取るが、イマイチ流れが掴めない。
ただのホストと客よりは、親しい間がらなのかと思えるやりとりではあるが、それ以上の深い内容までは想像も予想も出来ない。

瑠璃が全神経を背中に向けていると、絵理奈とリュウの声が途切れた。

「じゃね」と絵理奈の明るい声がその後聞こえてきた。ちらりと見ると、軽いキスを交わし、リュウは階段を降りて行くところだった。

自分の居る方向に絵理奈が歩いてきたので、瑠璃は慌てて携帯を耳にあてて、電話をかけるフリをする。

すれ違う瞬間、絵理奈の顔を見た。

その顔は、さっきまでの楽しそうな顔が嘘のように、ツンとした表情に変わっていた。