『あのホスト』と言って、目で指す方向に驚愕する。
「…え?」
「服も同じだから間違いないと思う」
「待って…! こっちの人と一緒じゃなくて?」
楓は自分の体で隠すように、後方の、リュウのテーブルを指差して瑠璃に聞く。
だけど、瑠璃はふるふると頭を横に振り、やはり初めに指した方向を見て答える。
「ううん。あっちに立ってる人」
瑠璃の視線の先にいる人物
(ケン⁈ なんでケンと絵理奈さんが)
「あれ? でも、あの人、違う人を指名したのかな?」
瑠璃は、ずっと他のテーブルで立ったままのケンを見て不思議そうに言った。
楓が横目でケンの様子を見ていると、ケンもまた、絵理奈の方向を見た際に楓と目が合った。
なんとなく、楓は目を逸らし、瑠璃に向きなおした。
「…シュウ? どうかした?」
「…ねぇ、瑠璃。その…あの女の人とあっちのホストの人は、一緒に歩いてたの? それとも偶然っぽかったり…」
「んー…どうかなぁ。でも、わたしが見た感じだと、偶然ではなさそうだったけど。カフェに入って行ったし」
「カフェに――」
瑠璃の言うことは恐らく嘘なんかではないと楓は思う。
ケンはなぜ、絵理奈といたのか。
リュウがらみだろうか。だとしたら、何かを一人で抱え込んだりしてないだろうか――。
大体、リュウの客と一緒にいるのがばれたら、きっとタダでは済まない。
そんな心配が楓の頭を駆け巡る。
次に楓は絵理奈を盗み見た。
すると、絵理奈もケンを見ているように思えた。
(まさか…二人は好きあってるんじゃ…だとしたら、余計なお世話か…)
「待たせたな、悪い悪い!」
そんな絵理奈のテーブルにやってきたのはリュウだ。
「待たされるのなんて、しょっちゅうじゃない」
「なんだよ。怒ってるのか?」
それ以降の会話は隣のテーブルとはいえ、少しの距離と店内のBGMで聞き取れない。
一体どうなってるのだろう。
楓の頭には疑問符でいっぱいだった。