開店して、リュウは何事もなく店に戻ってきた。

楓はあえて避けることもせずに、普通に業務をこなす。
反対にケンは、ちらちらとリュウの方を気にしていた。

どうやら同伴してきた客は、絵理奈ではないところをみると、どうにか交わしたのかとホッとした。


「いらっしゃいませ。瑠璃様」


受付に立つウェイターが頭を下げる。
その客に楓は気がつき、笑顔を向けた。


「いらっしゃいませ」
「シュウ。また、来ちゃった」
「うん。僕は瑠璃の他にお客いないから嬉しいよ」
「……ほんと? 良かった!」


照れたように、はにかんで俯く瑠璃を可愛く思う。

…でも、同じ女としての勘。
瑠璃は、自分に恋をしているのではないか。
だとしたら、もし女とバレれば、普通に振られるよりもショックなことかもしれない。

嘘を、つかれているのだから。


「シュウ?」
「あ、ごめん。何頼もうか?」


ぼんやりとそんなことを考え、軽く頭を振る。


(余計なことは考えるな。隙を誰にも見せるな。今はただ、シュウとしてここに居ればいい)


そう心に決めて、瑠璃と向き合い、話をし始めた時だった。


「いらっしゃいませ。絵理奈様」


楓は視界の隅で絵理奈を捉えた。
そして反射的にリュウのテーブルを見る。

リュウは同伴してきた別の女と盛り上がっているようで、絵理奈の存在にまだ気がついていなかった。


「ご案内致しますね」


ウェイターが空いてる席に、絵理奈をエスコートする。
楓のテーブル前を横切る絵理奈は、チラッと楓を見るだけで、また前を向いて行ってしまった。

やけに今日はおとなしいな、と楓は思う。


「あれ…あの人…」


すると瑠璃が絵理奈に視線を向けてぽつりと漏らす。


「知ってるの?」


絵理奈はああ見えて、瑠璃と同じくらいかもしれない。だったら、二人はどこかで顔を合わせたり、繋がってるのかもしれない。

楓はそう思って瑠璃に聞くと、信じられない答えが返ってくる。


「今日……あの人、あのホストの人と渋谷に居た気が」