賑やかな着信がカフェ店内に鳴り響いた。


「もしもし」


足を組んで、火を付けた煙草を一度大きく吸いこんでから、ゆっくりと吐きだして応答する。


『――ああ、オレ。今どこにいる?』


その質問に、無表情で淡々と答える。


「今ぁ? シブヤのテキトーなカフェ」


テーブルの上に置かれたお金を、頬杖をつきながら眺める。
そしてまた煙草を一口吸って、電話の相手に言った。


「どうしたの? そんな焦った声出して。なんかあったみたいね?」
『ああ、予定外のことが起きた』
「予定外?」


繰り返して聞きながら、まだ長い煙草をテーブルの上の灰皿にギュッと押し付けた。


『アイツ――男だ』


スピーカーから聞こえたその言葉に、顔をしかめて、聞こえない程度の舌打ちをする。


「ちょっと。そっちが『自信ある』っていうから付き合ってあげたのに」
『あーうるせぇな。だからもうこっちはいい。そっちもとりあえず好きにしろ』
「わかった。好きにさせてもらうわ」


躊躇いなく、自分が話し終えた後に通話を切る。
そして携帯をテーブルの上に投げるように置くと、カバンからポーチを出す。

コンパクトミラーで自分の顔を確認すると、ポーチから口紅を手にとってキャップを外した。

濃い色がのぞく、その口紅を唇へと近付けて、ピタリと手を止める。


『その方がいいな』
『オレは今の方が好きだ』


つい先ほど、自分の目の前に居た男が残した言葉を反芻する。

そして鏡の自分と目が合った時に、言い聞かせるように呟いた。


「――バカじゃないの…」