店の中から窓の外をぼーっと眺めていると、コツコツと足音が近づいてきた。

――その音にだるそうに体を起こしてゆっくりとリボンのついたパンプスから視線を上げる。


「なによ。まだ昨日のお酒抜けてないわけ?」
「――――な…」


確かにまだ多少残っているお酒と、眠気。
それで気だるくなっていたケンだが、絵理奈を見て目が覚めた。


「だ、誰?」
「失礼ね! わからないわけ、ないでしょ?!」
「別人だ…」


ケンは背もたれに寄りかかりながら、絵理奈の顔から目が離せなかった。

さっきまでの絵理奈と違う。

濃いアイシャドウ、くっきりと描かれていたアイライン。バサバサとなりそうな黒々としたつけ睫毛。
しっかりと縫っていた口紅の上のグロス。

それらが全て違っている。

ナチュラルメイクとでもいうのか――。簡単に言ってしまえば、“清楚”な感じだ。
勿体ないのは服装と香水の香り。

それと、話し方。


「絵理奈をおばさん扱いするからよ!」
「おばっ…そこまで言ってないだろーよ」
「同じことよ!」
「あーあ。せっかく見た目変わっても、その上からの話し方とか……」
「な、なによ。仕方ないでしょ。これがフツーなんだから…」


ストン、とケンの向かいに絵理奈は座った。

もっとケンの好感度が上がる自信があったのに、予想に反して、ケンはシビアだ。
そう思った絵理奈は、悔しくてケンを真正面から見られない。

絵理奈と違って、ケンはじっと絵理奈を正面から見据えていた。


「――――なに…よ?」
「いや。女は変わるんだなーと思って」
「どうせ、中身は変われませんよー」
「でも、その方がいいな」
「――え?」


ケンの言葉を聞き返すのと同時に、絵理奈は顔を上げてケンを見た。

すると、綺麗で純粋そうな目で、ケンが言った。


「オレは今の方が好きだ」


『好き』と言われた絵理奈は、初めて動揺する。
薄く乗せたはずのチークも意味がないくらいに頬を紅く染めた。


「なっ…」
「え! あ! いや!! そーゆー意味じゃなく!!」


ケンも深い意味がなかった言葉だけに、その絵理奈の表情をみてから、顔を赤くして慌てて否定した。