「今日、本当は同伴して欲しいって言われてるの」


絵理奈は掴まれていた腕をするりと抜けて、ケンの胸へと近づいた。
ケンは不覚にも少しドキリとしながら、絵理奈が近づくのを拒めなかった。

それは、決して恋心ではないとわかっていながら。

どうしても、さっきのアザを見てしまっていたら、絵理奈を放っておくことが出来ない。

そんなケンに、絵理奈から腕を回す。


「だから、ケン?」
「――――」
「時間が過ぎるまで、一緒にいて?」


好きでもない女。
どちらかというと、苦手なタイプの女。

けど、ケンは自らの意思でその手を引き剥がすことが出来なかった。

しばらく見つめ合った後、ケンが静かに答えた。


「…わかった」


その言葉を聞いた絵理奈は、安心したように笑って「ありがと」と言った。



(でも、今日だけ逃れたんじゃ解決にならない)


お人好しで真面目なケンは、そんなことを思って隣を歩く絵理奈を見る。


「なーに?」
「や。こっちのこと」
「あははっ。ケンといると楽しい!」


絵理奈は元気になったようで、本当に楽しそうに笑う。

二人は目的もなく、ただそのまま話をしながら歩いた。


ややしばらく歩いてから、通りかかったカフェに入り、向かい合って座った。
それからも、他愛のない会話が続いていた。


「ケンていくつ?」
「20」
「あ! 絵理奈と一緒だ」
「え?! マジ?!」
「なによー。いくつだと思ってたわけ?」
「もうちょい上なのかと…あんた、化粧濃いから」


ケンがバカ正直に言うと、絵理奈が急に席を立つ。
さっきまでは身長差から見下ろしていたケンが、目を丸くして絵理奈を見上げる。


「――ちょっとトイレ」
「あ、ああ」


そうして突然席を離れた絵理奈の後ろ姿を見て、化粧室へと消えていくのを確認して、ケンは長く息を吐いた。
そして、テーブルにうなだれるようにして突っ伏すと、ぼそりと呟く。


「同い年かよ…」

(つーか、全然違う人生歩んでるっぽいのに、なんでオレらは二人でこんなとこにいるんだ…?)