「――お店と外で会うのとは、違うから…」


諦めたように、穏やかな口調で絵理奈は答える。


「あんた、ばかばかしいと思わねぇの? あんなやつに金貢いで」
「――ふっ。ケンってホント面白いね。自分だって同じ貢がれる側(ホスト)なのに」
「オレは――――!」
「『オレは違う』? 本当にそう?」


絵理奈の問い掛けに、ケンは真っ直ぐ、目を逸らさない。


「――――違う」


断言したケンに、驚くような表情を見せた絵理奈が溜め息を吐いた。


「…ケンなら本当にそうかもね」


ふいっと背を向けた絵理奈の後ろ姿に、ケンは目を疑った。

ケンは思わず絵理奈の肩に手を置いて、顔を向けさせた。


「おまえ、背中にっ」


そのケンの言いかけた言葉に、絵理奈はハッとして体を翻した。
そして正面を向けて、襟ぐりの開いたトップスを軽く直す。


「…なに?」
「『なに?』って! それ、アザだろ。それも故意にやられた――」
「ぶつけたの。酔っぱらって」
「そんな、肩甲骨辺りをアザになるほどぶつけるわけねぇだろ」


ケンに言い負かされると、絵理奈は観念したようで、ぽつりぽつりと話し始める。


「違うの…。いつもいつもこうじゃない…ちょっと悪酔いしたり、機嫌悪い時に、少しだけ――」
「『少しだけ』って! そんなレベルじゃないんだろ?! なんでさっさと離れねぇんだよ?」


ケンが熱くなって、絵理奈の両腕を抑えるようにして問い詰める。
そんなケンの目から逃げるように、顔を横に背けると、絵理奈は小さな声だがきっぱりと言った。


「優しい時もあるから」


ケンは理解出来ず、言葉を失う。
そんな様子を見て、絵理奈は自分の腕を掴む手にそっと手を重ねた。


「けど、自分でもケンが言ったように思う時があるのもほんと。だから――…」


そうして絵理奈はケンを見つめた。


「だか、ら…?」
「だから、今日、ケンといる。って言ったら、意味わかる?」
「……わかんね」


意味深な言葉と、目。
それにケンは、色白の手を力ずくで振りほどくことが出来ないでいた。