「…あー……アタマいてぇ…」


まだ慣れない部屋の床で、目を開けたケンは頭に手を当てて言った。

視界がまだ霞んで見える天井をぼんやり見ていると、携帯が鳴った。


「……はぃ…」
『あ、もしもしィ?』
「…なに。てか、なんで……」
『えー? なに、忘れちゃったの? 昨日、帰り際にケー番交換して、今日約束してくれたじゃない』


顔をしかめて、携帯を少し耳から離す。
そして目を瞑ったまま、昨夜の記憶を呼び起こしていると、耳元から絵理奈のまた大きな声が響いてきた。


『ケンて、お酒、ほんと弱いのね? かわいー』
「……るせ…」
『でも、ちゃんと約束は守ってね?』
「約束――…」


そうして、ケンは再び記憶を遡る。
そして、その絵理奈の言っていることを思い出して目を開け、体を起こした。


『デート。じゃ、待ってるから』


ブツッと切られた携帯を、そのまま床に放った。
あぐらをかいて、頭を下げて、また数分目を閉じる。


(あー…寝起きにあの声は堪える。つーか『デート』って……昨日の自分を恨むぜ)


そんなことを思って重い頭をあげる。
さっきよりも意識がはっきりとしてきたケンは、もう少し詳しく昨日のことを思い出した。

そして小さな置き時計に目をやって時間を確認する。


「12時か――――ちっ」


舌打ちをしながらも、立ち上がってシャワーを浴びに行く。
強めの水圧を顔にあてながら絵理奈の言葉を思い出す。


『…ねぇ。絵理奈、リュウが怖いの。明日ももしかしたら連れ回されて――なにされるかわかんない。だから、一緒にいてくれない……? 絵理奈にはケンしかいないの』


キュッと蛇口を閉めて、俯き、自分から滴る雫を見つめる。


「リュウ(アイツ)――…まさか、女相手になんかしてんじゃ……」


絵理奈のことはこれっぽっちも想っていない。
けれど、“SOS”染みたことを言われたら――ケンの“真面目”な性格上、放っておけるわけも無い。


「ちきしょう。オレは今日も仕事だってーの」


口では文句を言いながらも、浴室を早々に出ると、新しいシャツに腕を通した。