「……」


勢いよく水が流れ出る蛇口を、ぼんやりと見つめる。
そして手を広げて、堂本から返された、圭輔からのプレゼントを見た。


「堂本さんが、コレを…」


たまたまだろうか?
――いや、もしかしたら、“わざわざ”かもしれない。

そう思うのには理由がある。

さっきのレンとの話――堂本の“特別”と思う理由。





『“似てる”らしい』
『――“似てる”…?』


レンの言葉を復唱するように、そのときの楓は聞き返した。
すると、レンは小さく頷いて言った。


『…菫(すみれ)サンに――』
『菫…さん?』
『堂本さんの姉だ』
『お、姉さん…?』


そしてイマイチ話がまだわからない楓はおうむ返しするだけ。
もう少しわかるように――と、レンに続きをせがむような視線を向ける。


『俺も会ったことはない。だけど、少しだけ――話を聞いたことがある。そしてこの間、また少しだけ教えてくれた』
『……?』
『俺も、どうしてお前をそんなに構うのかが不思議だったから。そんな顔色を読まれたんだと思う。それで、堂本さんが言ったんだ』


楓はごくりと唾を飲んで、レンの口が再び開く時を集中して待つ。
そして、そのレンの唇が動いた――。


『「もう何年も会ってない姉――菫に似てる気がしてな」って』




そこまで回想していると、バケツから思い切り水が溢れ出てることに気がついて、慌てて蛇口を閉めた。

ポタッと落ちる水滴が、バケツいっぱいの水面に吸い込まれると、そこに映る自分の顔が歪んだ。


「お姉さん……か」


知りたいという自らの願望だったはず。
でも実際に聞いて、わかったこと。

“特別”なのは、自分自身に対してじゃない。

堂本の肉親である、姉を投影されていたから。


「そんな都合いい話なんて、あるはずないもの」


水の揺れが落ち着いたところに映る自分に、力なく言った。

そのとき、バタバタと遠くから騒がしい足音が聞こえてきて、楓は顔を上げた。

女々しい顔をしていたらだめだ。
男(ホスト)である、今ならなおさら。

そう思って楓は表情を作り直して、近づいてくる足音の方向へと顔を向けた。