あの場を慌てて去ったリュウは、早足で店の外に続く階段を昇っていた。


「――ああ、オレ。今どこにいる?」


肩に携帯を挟んだまま通話をし、空いた両手で煙草に火を点けようとしていた。
しかし、先程のこともあってか、うまくライターに火が灯らない。


「…ちっ。ああ、予定外のことが起きた」


ようやく煙草に火が点くと、大きく息を吸い込んだ。
そして自分を落ち着かせるようにして、ゆっくりと紫煙を吐く。


「アイツ――男だ。あ? あーうるせぇな。だから、もうこっちはいい。そっちもとりあえず好きにしろ」


用件を伝え終えると、携帯をポケットに押し込む。
そして、そのポケットから手を出した時には楓から奪ったままの小物入れがあった。


「…ち。絶対そうだと思ったのに――」


そう言って、小物入れをその場に投げ捨てようとした時だった。


「“人のモンに手を出すな”ってルール、忘れたのか?」
「ど…‼ うもと、さん――」


リュウの手を横からいきなり鷲掴みにして言ったのは堂本。
そして穏やかな口調と反して、リュウの腕を握る手に力が込められる。


「人の客に手を出しちゃいけねぇってのは、もちろん人の私物も同じこと。そのくらい、新人でもわかることだぞ」
「あ……その…」
「リュウ――これは、お前のモンじゃねぇんだろ」


突然の堂本の姿に、リュウもさすがに機転がきかず…口籠っていると、鋭い目と低い声で、堂本が威嚇する。


「こういうことを続けられると、さすがのおれも動くことになるぞ」
「ぃや…これは――」
「もういい加減、お遊びは辞めるか、それともDReaM(ウチ)を辞めるか――」


そこまで聞いて、リュウは静かに堂本の手に小物入れを渡した。


「…いえ。そこまでアタマ悪くないんで」
「つーか、頭イイだろ。お前は」


くすっと笑って堂本が言うと、リュウは何も言わずに店とは逆の方へ足を向けた。


「今日、休みだったか?」
「……いえ。同伴で。あとから店戻ります」
「…そうか。お疲れさん」


リュウは軽く頭を下げて、堂本に背を向けた。
歩き去るリュウの背中を見届けたあとに、リュウから渡された小物入れを見る。


「――楓、か」