「……リュウさん。そんな趣味があったんですか」
その楓の声は、全く動じないもので、その話し方にリュウは拍子抜けする。
リュウはパッとドアの隙間から顔を上げ、その声のする方を見て愕然とした。
視線の先に見えたもの――――。
それは、自分に背を向けた素肌の“男”の上半身。声は紛れもなく“シュウ”のものだった。
予想に反するその姿に、リュウは目のやり場に困る。
「僕の、着替えを手伝いたい理由って、なんです?」
リュウが動揺しているのに追い打ちを掛けるように、楓は言った。
すると、リュウは「なんでもねぇ!」と早口で言い捨て、バタンとロッカー室を慌てて出て行った。
「……はぁー」
その扉が閉まる音を聞いて、リュウが完全に出て行ったのを確認して、楓はへたりこんだ。
それと同時にギッとロッカーが開く音に、楓は気の抜けた顔を上げた。
「――一か八かだったけど、切り抜けられたな」
電気の逆光で、影を作りながら楓を見下ろして言ったのは……。
「はい……。本当、ありがとうございます。レンさん」
人ひとり、ようやく入れる幅のロッカーから立ちあがって出ながら楓は礼を言う。
レンは楓を無表情で見つめ、ウィッグを外して髪をかきあげた。
楓に扮していたのは、レン。そして、ロッカーに身を潜めながら、声だけを楓が発していたのだ。
ウィッグを指でくるりと一回転させてレンが言った。
「“さすが”としかいいようがないな」
「え…? あ……そう、そのカツラって……」
レンの手にしているウィッグを見て、楓は不思議に思う。
偶然にも、自分と同じような髪型・色のそれを――なぜ、レンが持っていたのか。
それに、突然のことだったのにも関わらず、対応が素早い。
大体、なぜ、こんな時間にレンがここにいるのか。
「レンさん、なんでここに…?」
「あー…監視カメラだ」
「監視…カメラ?」
「店外にひとつ、あるんだ。これは従業員も知らないから言うなよ」
イマイチ意味が理解出来ない楓は目を細めて首を傾げた。
レンが自分のロッカーを開け、予備のシャツを楓に投げ渡すと、続けた。