楓がロッカー室へと向かった時――リュウは楓に気づかれないようにそっとあとを追う。

そして、少しだけ間を開けると、楓が居るロッカー室のドアノブに手を掛けた。
音がならないようにそっと回す。しかしほんの僅かな音も、静かな廊下には響いてしまう。

おそらくロッカー室内にも、そのドアが開いた音が聞こえただろう。

しかし、リュウは構わずそのままドアを開けた。


「――おい! お前、替えはあんのか?」


リュウは冷やかすような口調でそういいながら、部屋を覗くように見た。
「替えはあんのか?」などと、白々しい声掛けには、もちろん理由がある。

昨日、楓が部屋を出たあとに、こっそりと楓のロッカーからシャツを抜き取ったのだ。

そうすれば、『ある』と思っているために、躊躇いなく濡れたシャツを脱ぎ捨てるだろう。

そして、実際は『ない』。

そのシャツを脱ごうとしている姿を見れば、疑惑が確証に変わる。
なんなら、ケータイで写真のひとつでも証拠に撮れたなら上出来だ。

全ては仕組まれ、計算されていたこと。


楓の正体を確かめるために――。


「替え、貸してやろうか? ああ! なんなら着替え、手伝ってやろうか――」


そんなことを言うのは、リュウが自分の中に芽生えた“疑惑”の答えは、当たりだと自信があるからだ。