黒田和男 51歳、
あらゆる商売を手がける実業家。
貧しい環境に生まれ、血の滲むような苦労の末に、そのハングリー精神から、今の地を築き上げたらしい。
でも、そんな凄まじい人生を生きてきたなんて、全然見えないよ。
優しくて、穏やかで、落ち着きのある大人で……
人間って苦労する程に、こんなにも余裕が身に付くものなのかな?って、ホント不思議に思えるぐらいカッコいい男。
私はこの男に惚れた。
黒田が言った。
「久美ちゃん、今な、交通安全週間やねん、で、飲酒やから、車で帰るのは無理や……
この上の部屋、泊まって帰ろか?」
……少しの期待はあった、もしかして?
とは思っていた。
でも最初のデートで?マジでこんなにも早く?
これは、今、夢でも妄想でも何でもなく現実なのね。
色んな考えで脳が渦巻いてる私の顔を、黒田は覗き込んできた。
「嫌か?俺のこと嫌いか?」
私は一生懸命に、首をブンブン横に振った。
「その反対です!」