その客は、私の横で微かに笑みを見せながら言った。

「美味しいか?」


「えぇ………」



小さなステージでは、若僧がノリのいい曲を歌っていて、周りは熱く盛り上がっていた。


私の前に座ってる客2人は、何か内容の分からないことを話し込んでいる。


私の体の側面は、甘い声の持ち主とぴったり引っ付いていて………。


私と横の客……
一瞬だけ、この世は2人だけの世界に思えた……
ママが言ってた、これを恋人気分って言うの?


私は、置いたグラスをもう一度持ち、その琥珀色に唇を重ねた時、横の客の顔が近づいてきた……と思ったら、えええぇぇ~~


その客が、唇を持ってきた、私の左頬に!


   チュッ


な、な、何?今のは何?


このうるさいBGMの中で、私の耳の機能は止まってしまった……
何も聞こえなくなった。


この世界で、今生きている人間は、私と横の客だけみたいな……
世界は2人の為にあるような錯覚に落ちてしまった。


ドキンドキンドキンドキンドキン……。


これを恋と呼ぶのですか、世間では?