その日~退院祝いって事で、久し振りに和男さんが食事に誘ってくれた。


 寿司屋「桃太郎」
この辺では、高級で名の通った店だった。


高級だって大衆だって、そんな事は全然問題じゃない……
こうしてカウンター席で、和男さんと横に並んで座ってる……この時間が私にとっては全てだった。


日本酒を酌み交わす、横に和男さんを感じる、これ以上の幸せは考えられない……筈なのに、私の頭ん中で、少し残った記憶が、この幸せを打ち消してしまった。


ワキガ……
和男さんは、どう思っているの?

聞きたかった……
でも、こんな場所で、とても聞く事なんて出来ないし……
そうだ!後で2人きりになってから、それとなく聞いてみようかな?


和男さんが会計を済ませた。


その愛しい腕に掴まろうとした瞬間!?


和男さんがスルリと腕を引っ込め、私を見た。

「家内の体調が……先週から良くないのや……
今日は早う家に帰らなあかんから……
悪いな……これタクシー代やから、気をつけて帰りや」


と、私に1万円札を握らせた。