●私●
私は今、黒田企画が属するビルの前にいる。
オフィス街の一等地、12階立てのビルを見上げた。
(有)黒田企画は7階。
片手にバッグ、片手にはカワイイ紙袋に入れたお弁当を持って、私はケータイを手にした。
「あのう、もしもし、上田と申しますが、黒田社長様、いらっしゃいますでしょうか?」
「恐れ入りますが、どちらの上田様でしょうか?」
「社長様に、上田久美子とおっしゃって下されば分かると思いますので……」
「少々お待ち下さいませ」
お待ち下さいませって事ははよ、和男さん、会社にいるんだ、でも……何だか今の事務員って意地悪そうな受け答えだったわ。
「はい、お電話代わりました」
それは、紛れもなく愛する和男さんの声だった。
「私、久美子……会社に電話してごめんなさい。
ケータイに伝言入れたのに、電話してくれなかったから……だから」
「はい、はい……さようですか?はい、はい」
黒田は、さも仕事相手のように、誤魔化しながら受け答えをした。
「でね、和男さん、私、今ね、会社の1階、エントランスホールまで来てるの、ちょっと出て来てほしいんだけど」