桜の木の下のベンチに腰をおろし、先に口を開いたのは俊介だった。

「綺麗だな、桜…」

俊介は顔をあげ、真上に咲く桜を見つめていた。

私も今にもこぼれ落ちそうな満開な桜を見上げた。

「ほんと、綺麗…」

「俺達ここで別れたんだよな。調度、あの時もこの時期だった………。あの時もこんなに綺麗に咲いてたのかな……」

俊介の言葉が胸にささった。

あの時、私に桜を綺麗だと思える気持ちがあったら、きっと俊介と別れずにすんだだろう……。


私は意を決して話し始めた。

「俊介…あのね、私今日俊介に会いに行こうとしてたの……」

俊介は驚いた顔をし、何か言おうとしたが、私は俊介の言葉をさえぎり一気に話し始めた。

「ごめん、聞いて!…私ね、この前、電車の中で俊介を見た時から、俊介の姿が頭から離れなくて………。なんで、あの時、もっと俊介のこと信じれなかったんだろって、なんで、あんなに子供だったんだろって、きっといっぱい、いっぱい、俊介に嫌な思いさせたって………本当にごめんなさい。………私は、今も…」

言い終わる前に、私は俊介に引き寄せられ、強く抱きしめられた。

「しゅ、俊介!?」

「俺も、お前の姿が頭から、離れなかった……。俺も、なんであの時、お前にもっと優しくできなかったんだろって、なんであんなに不安にさせてしまったんだろって……。」



暖かい春の風が吹き、桜の花びらが舞った。

抱きしめられた体からは、俊介の体温が伝わる。

「私たち、同じ気持ちだったのかな・・・」

俊介は力をぬき、私と向きあい、涙があふれだした瞳を、じっと見つめた。

大きな手で、私の涙を拭う。

「電車でお前を見るまで、お前以外にきっと違う出会いがあるって思ってたんだ。…でも、お前を見て………。お前がまだ好きなんだってわかった。だから、今日、会いに来たんだ……。」

「私も同じ……。俊介が好き…。」


そういうと、俊介は少しほほ笑み、私をまた引き寄せた。

そして抱きしめ、優しくキスをした。


私たちは何度も何度もキスをした。

今までの時間を埋めるように、何度も。