「おぉ…ふぉ…っと」

ほたるは千鳥足で歩く。


大きい道路を渡っている途中。

俺はほたるがこけそうでこけないのを見ていた。


「ふゃぁ〜疲れた〜」

そう言って道路のド真ん中で座り込んでしまった。


最悪な事に、車が来ているではないか!!

「ほたるッ!!」


俺の体はいつのまにか勝手に動いていて。

車はもうそこに居る。


間に合うか。

…間に合わせる!!!!!


車が来ている事に気づいていない。


ほたるを抱き上げる。


ほたるがまのぬけた声をあげていた。


俺の頭はもう真っ白だった。




「べらぼうめぃ!!」




と運転手の独特な怒りの言葉が耳に届いて我にかえった。


「ハァッ…ハァッ…」

俺は肩で大きく呼吸していた。


ほたるが俺を呆然と見つめていて、ほたるをちゃんと助けれたのが分かって、強く抱きしめた。

しばらく抱きしめた後ほたるを降ろした。


「善哉、かっこいいー!!」

まだ呂律が回りきっていない言葉遣いと表情は子供みたいだった。


俺は少し恥ずかしくて、まぁな、とだけ返事をすると頬をかいた。

するとほたるはくるりと自動ドアとは反対の方に踵を返し、歩きはじめた。


「…ほたる??」

そう、呼んでもほたるは返事をしないで再び道路の真ん中に立った。


「も一回やって☆」

ほたるは無邪気な笑顔を浮かべて両手を広げている。


車が通るまで後数秒。

馬鹿!!!


また、俺の体は無意識に動いていた。

耳に響いたの車が重たく引きずるような甲高いブレーキ音。


「てやんでぃ!!!」

また、独特な言葉遣いが聞こえた。

ここはそういう地帯なのか??


呑気にもまた笑顔を綻ばせて喜ぶほたる。

「ふざけんなッ!!!」

俺はつい、怒鳴ってしまった。

ほたるは目を見開いて驚いていた。


ちゃんと弁解しようとした時はもう遅い。

ほたるの大きな瞳からはもう涙がこぼれ落ちそうだった。


「ふぇぇぇ…善哉…怖い…!!」

酔っ払ってるから喜怒哀楽が激し過ぎてついていけねぇ。


「違うって!!俺はな、ほたるを心配してだな??」

泣きじゃくるほたるを抱きしめたまんま慰める。


数分ぐらいしてから、ほたるは静かになった。

「ほーたるちゃーん??」


そう呼んでも返事が無く、泣きじゃくってはだけさせられた肌にほたるの吐息がかかる。

多分、寝てるんだろう。


ゆっくり歩いてほたるのポケットからキーを取り出して自動ドアのロックを解いた。