もう一度、成川が提示した契約書を読み返す。


 今回の株取引に関することが全部明記されていた。


 楓音は街の目抜き通りにある予約制の高級レストランだったが、居心地は悪い。


 成川が、


「もういいですよね?では、お近付きの標に一杯」


 と言って、グラスに栓を開けたワインを注ごうとする。


 年代物のワインで普段飲めない類のものだ。


 グラスに手を置き、


「ちょっと待ってください。まだお話ししたいことがあります」


 と言った。


「まだ何か?」


「本当に今回の取引は公正なものなのですね?」


「ええ。弊社と御社間の正式な取引です。裏などは一切ありません」