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 土曜の昼、雄哉に連絡を取ると、彼が部屋に来た。


 あたしにも一定の守秘義務はあるのだが、どうしても恋人が来ると、社内での話の一部を口外してしまう。


「加賀美コンツェルンって、あの加賀美純三が起業した新興の商社だよな?」


「ええ。うちと業務提携したいみたいで、すでに株を買い占め始めてるって瀬岡課長が言ってたわ」


「どのぐらいの株、買ったんだろう?」


「確か、持ち株の32パーセントを取得して、いずれ筆頭株主に躍り出る可能性が高いって言ってたわね」


「大企業だけど、地方でも君のところみたいな中小の優良企業と手を組みたいんだろうな」


「まあ、そうかもね。あたしもこっちに来る株式担当者の成川さんって人の事はあまり知らないんだけど」


「会ってみないと分からないよ。俺も株取引の交渉なんてしたことないし」


 彼がそう言って、あたしの淹れていたアイスコーヒーのグラスに口を付け、傾けた。