そう……苦肉の策だった。
テキトーに生きていた私は、親父に勘当されてもテキトーに生き続けていた。
突然、親父が死んで、この店が残った。
何年ぶりかに、この店に足を踏み入れた私は、キレイに並べられている調味料や調理器具、食器を見て泣いた。
若かりし頃の親父の姿が目に浮かんだ。
親父に申し訳ないと思った。
ひとしきり泣いたあと、人生をやり直すチャンスだと思った。
親父が残したこの店で人生をやり直す。
だが、私は何も知らなかった。
何も出来なかった。
『親父をなめていたんだ』と痛感した。
親父の店……親父の味……
私は、子どもの頃に親父が作ってくれたミートスパゲティの味を思い出した。
あの手この手、試行錯誤。
「違う……」
何度も投げだしそうになった。
最後の最後、半ばやけくそで思い付くすべてのものを混ぜ合わせた。
しかし、その味はどこか懐かしく……
私には最高の味に思えた。
ある日、
『一か八か……伸るか反るか』
そんな賭けみたいな気持ちで店に出した。
「美味しいね!親父さんの味とはまた違った美味しさだよ!マスター!」
親父の頃からの常連客の言葉に私は泣いた。
必死の日々は、いつの間にか私の宝になっていた。