「どうして!こんなにこの界隈のみなさんに愛されているんですよ!全国でも愛されますよ!」

「……無理です」

「わが社が万全のサポートとバックアップもお約束します!!」

「いや、だめだ……無理だ」

「自信もっていきましょうよ!」

「うちの味は……うちの味はここでしか……」

「こちらの秘伝の味は忠実に再現します!」

「いや、秘伝だなんてものじゃないですよ」

「いやいや、この人気ですから」

「秘伝だなんて大袈裟な言い方やめてください」

「でも実際、秘伝の味って言葉には引力がありますからね」

「……」

「気に入りませんか?では、“本家”なんてワードもあります」

「いや、本家って!うちしかないし」

「じゃ、“老舗の味”ってワードは?」

「うち老舗の歴史ないでしょ」

「老舗がダメなら“洋食界の赤い彗星”でどうだ!」

「ガンダムじゃないんだから!」

「“昔なつかしの”ってのもウケがいいんですが」

「昔って……僕からなんで」

「……では“行列のできる”」

「あの番組みたいで嫌だな」

「あんた贅沢なやつだな」

「そもそも断ってるから」

「でも、消費者なんてものはワードで動くものなんすよ!」

「サギだよね、完全に」

「たいして考えちゃいないし、楽でうまけりゃいいんですよ」

「開き直ったね」

「じゃ、これでどうですか!“門外不出”ってのはどうだーっ!!」

「!?……門外不出…………そうだよ……門外不出なんだよ……やっぱり、うちの味は教えるわけにはいかないんだ……。悪いが帰ってくれ」