「なぜですか!?私どもが目をつけて全国展開をしてきた店の数々は全て成功していますよ!!」
「いえ、やはり、お断りします。この街で細々やってゆくのが性に合ってるんでね」
「いやーいやいや!でもこの味を!この素晴らしい味を!全国の方たちに味わせてあげたいとは思いませんか?」
「……うーん……」
「ほら、あのサラリーマンの、ホッと寛いだ至福の顔……あのOLさんの美味しそうな顔……そこの奥様たちの笑顔……あなたの味があってこその表情なんですよ」
私は店内を見渡す。
改めて見る、お客様の表情に胸が熱くなる。
「あなたがこのお店を全国展開すれば、各地であんな幸せな笑顔が広がるんです。素晴らしいことだとは思いませんか?」
「…………いや……やはり」
「では!ではせめて!!こちらのミートソースとコーヒーの味を『街の軽食屋シリーズ』として、わが社プロデュースで全国展開で販売しませんか!!」
「とんでもない!無理だ!」
「なぜですか!」
「うちの味を全国になんて……とんでもない!」