病院の駐車場に降り立つと、阿久津は病院を見上げた。
空は鉛色の雲に覆われ、今にも雪が降り出しそうだ。
阿久津の心の中もまた、この空同様厚い雲に覆われていた。
『なんで由美にあんなこと言ったんだ!』
数年前、電話で正太郎に詰め寄った記憶が蘇る。
そう言って、一方的に電話を切って以来、まともな会話をしていない。
この前の由美の三回忌ですら、阿久津と由美の身内だけでひっそりと執り行ったのだ。
「はあ……」
大きなため息が嫌でも漏れる。
「ため息ばかりつくなよ。さ、行くぞ」
圭介はついて来いと言わんばかりに、さっさと歩きだした。
「母さんは?」
病棟の廊下を歩きながら、ふと阿久津が尋ねた。
「ああ。まあ、相変わらずだよ」
「そうか」
「親父はさ、ほら、自分にも他人にも厳しいだろ?母さんもあれでずいぶん苦労させられたじゃない。だけど、こんなことになってしまってさ。まあ、あんまり表には出さないけど、相当、心細いんだと思うよ」
阿久津は黙ったまま、圭介の少し後ろを歩いた。
俺も、心労の一因なんだろうな。