等身大の鏡の前でクルクルと回って身だしなみを整える。

「よし!」

鞄を持って一気に階段を駆け下りる。

「おはよーっ」

「おはよう。ご飯出来てるわよ」

椅子に座ってテーブルを見ると、お茶がなかった。
お茶を取りに台所に向かうと、母が何とも言えない料理を作っていた。いや、料理なのかもわからない。

「お母さん?」

「何?あ、お茶忘れてたわ!」

何事も問題がないような口ぶりの母に、少し呆れながら聞く。

「一応聞くけど、ソレは何?」

「あぁ、これ?ちょっと今、新しい料理に挑戦中なの」

フライパンを前後に動かすが、すでに中の物は黒くなっている。

「……料理?」

苦笑いしながら問うと「そうよ!」と自信ありげに返答がくる。

「……何の?」

「シチューなんだけど、あれ、おかしいわね……液体にすらならないわ」

ため息をついて諦めたようにフライパンを流しに置く。

「シチュー……。何でフライパン!?料理以前に使うモノが違うから!」

「あら?……まぁ、いいのよ、そんなこと。それより、早く食べないともうすぐ8時よ?」

使っていた物を流しに入れて、テレビ画面を指さす。丁度、8時11分。

「へ?……やばいっ、ご飯食べてたら遅刻するっ。行ってきます!」

「あらあら、行ってらっしゃい」

微笑みながら手を振ってのお見送り。
その様子に少し腹が立ったことは、自然現象だと思う。