沙綾の問いかけに、天羽は驚いた顔を見せた。

「何よ、その顔」

天羽の表情に若干の苛立ちを覚え、沙綾は顔を歪ませる。

「だって……」

「だって何?」

立ったまま、両手を大きく広げる。

「……もう行動してるんだよ?」

下から吹き上げてくる風を感じながら、沙綾は目を大きく見開いた。

「出会って、話をして、それから、この場所に沢山の命を植えて、小さかった芽が少しずつ大きくなって……。5年前からここの時間は進んでるんだよ?」

少し照れながらも、満面の笑みを浮かべる。

「あぁーっ、天羽に諭されるとか、何かショックだなぁー」

俯いて、あえて大きな声を出す。

「ショック!?酷いなぁー、全く」

沙綾が小さく肩を震わせていることに気付いていても、笑って流す。
沙綾にとって、その方がいいと解っているからこその態度に、小さくお礼を言う。

「さてと、沙綾、私もうそろそろ帰るね?」

「……うん」

沙綾の頭をポンポンと軽く叩いて沙綾を宥める。
こういう時、天羽の態度と存在がありがたく思える。

「私また来週来るね?」

ベンチから降りて、鞄を手に取る。

「うん。待ってる」

「丁度電車の時間だから、行く。またね!」

ホームの方に走って行く天羽に手を振って、沙綾は目を閉じた。