「たっだいまぁー?……沙綾、まだ待ってるの?」
ハンカチを口に当てながら、もう片手でペットボトルを持って、沙綾を見つめる。
「んー、まだなんだよね、これが」
苦笑いで、ホームを見る目をいっそ細めてから、ため息をついた。
突然、二人の間を優しい風が吹き抜けた。
「春初めにしては暖っかいね」
「うん、そうだね。……暖っかい」
ホームには、誰一人としていない。
「そういえば、由貴也君がね?CD持ってきてくれて……きゃーっ」
天羽は木に向かって叫び始める。
「あーはいはい黙ってねー」
「だって、だってぇー……ふふっ」
木に抱き着いて奇声を上げる。
それを見ていた沙綾は一言「きもい」とだけ言って、今度は空を見上げた。
「……前から思ってたんだけど、沙綾って、心の声がすぐに出るタイプだよね」
いつの間にか叫ぶのを止めた天羽が、真剣な顔で唐突に言い出した。
「今更っ?出会ってもう5年目なんですけど」
「そうだっけ?いやー、月日が流れるのは早いね」
天羽のそんな態度にどうしても、沙綾は落胆してしまう。
「もう驚かないけどね?覚えてた私が馬鹿みたいじゃん……はぁ」
「ありがとね。覚えててくれて」
肩を落としている沙綾に向かって、心からのお礼を告げる。