「沙綾ぁーっ、ごーめーんーっ」

改札口の手前にあるベンチに向かって走りながら謝っている女の子。
腰まである長い髪を頭の上でポニーテールにして風になびかせている。

「遅いー。2分の遅刻」

ベンチに座らず、ベンチの後ろの木の上にいる『沙綾』と呼ばれた女の子。
セミロングくらいの髪が太陽の反射でキラキラ光る。

「相変わらず時間に厳しすぎ。2分ぐらいいいじゃん」

ベンチに座りながら、手に持っていた牛乳を飲む。

「駄目。天羽はルーズすぎるから。……まだ牛乳飲んでんの?」

「ん?……まぁね。飲む?」

「いらない」

木の上から飛び降りてベンチに座る。

「即答って……」

牛乳をすべて飲み終え、隣にあるごみ箱にペットボトルを捨てる。

「牛乳500mlの一気飲みってきつくないの?」

「んー……慣れた」

「……そう?私にはそうは見えないんだけど」

天羽は急いで鞄からハンカチを取り出して口に当てる。

「あー、ごめん」

「吐いたら締める」

「じゃあ水」

「買ってこい」

軽く文句を言いながら立ち上がる。

「もー少し優しく接しようとか思わない?」

「ない。いってらっしゃーい」

片手をひらひらと振る仕草をしつつ、沙綾は視線をホームに向ける。