「もう、ここで大丈夫です。本当にありがとうございました」


すっかり落ち着きを取り戻した彼女は、改めて僕に向き直ると、そう言ってキッチリと頭を下げた。

「いえいえ、僕の方こそ、何だかお節介を焼いてしまって……」

僕もつられて、頭を下げる。


「あの、今度お礼をさせて頂きたいのですが?」

と言う彼女の突然の申し出に、少し驚いたけれど、

「お礼だなんて!とんでもないですよ。
 それより、あなたにピッタリ合う素敵な靴が早く見付かる事を祈ってます」

と言って、笑った。




 遠くから走り来るタクシーを見付けた僕は、車道に体を出して、大きく両手を振った。

タクシーはハザードをたいて僕たちの前にスッと止まると、

「本当にありがとうございました」

裸足の彼女を乗せて、相変わらず月が綺麗な夜の街を、静かに走り去って行った。


「もうあんまり無茶しないでね」

見えなくなったタクシーの中の彼女に、僕は小さく呟いた。