ふと見ると、彼女はハイヒールを高架に残したまま、裸足で歩き始めていた。
「あわわわ、何か踏んでケガしたらどうするんですか!一応靴は履いて下さいよ!」
僕は慌ててハイヒールを取りに戻り、彼女を追い掛けた。
だけど
「ケガくらい……。今、とても気分がいいんです」
と言って、僕の言う事を聞いてくれない。
声も、笑顔も、彼女を包む空気までも、先程とは別人のようだった。
それはまるで、少女のようだった。
僕たちは月の明かりに導かれるように住宅街を抜け、目当ての大きな通りまで出ると、目を凝らし、必死にタクシーを探した。