『羽音…よう聞きや?』

「え?」

一瞬、ほんの一瞬だけ海音の声に焦りがあった。
何かを決断したような声と何かに焦りを感じてるような声。

――悲劇の始まりだった。

この悲劇を喜劇にできただろうか?

いや、私にはできなかった。

正しくは私たちには出来るはずがなかった。

『…――、で?』

目の前に大きなトラックが通過して、海音の声が聞き取れなかった。
何かを言ったようだけど、内容が分からない。

「なに?聞こえなかった」