「ただいまー」
玄関の扉を開け、私は靴を脱ぐ。
すると、私が帰ってきたことに気づいたのか、お母さんが台所から出てくる。
「あら、瑠花!おかえりなさい」
「うん。ただいま!」
私は笑顔でそう応える。
「あ、そうそう。夕御飯出来てるわよ」
「あ、夕御飯は後でいいや。なんか今日は疲れちゃって」
「そう?ならテーブルの上に置いておくわね」
「ありがとう」
私はそう言ってから、自分の部屋へと続く階段へ向かう。

「とーや!私だよ、瑠花!」
私は自分の部屋のベランダに出て、そう叫ぶ。
ちなみに、私の部屋のベランダの先には斗哉の部屋がある。
そして斗哉の部屋には、きっちりとカーテンが閉められていた。

しばらくすると、カーテンをシャッと開け、斗哉が出てきた。
「瑠花、お前なぁ・・。もう少し声量というものを考えろよ・・・」
「え?だって、それくらいの声量で叫ばないとさ、斗哉出てこないじゃん」
「あー・・・ごめん。俺が悪かった」

今思うと、こうやってベランダ越しで話すのも、久しぶりな気がする。
最近はお互い忙しくて、なかなかこうやって話す機会が取れなかった。
だからだろうか。とても嬉しく感じる。
さっきまでの憂鬱も何処かに吹っ飛んでしまうくらいに、嬉しかった。

「・・・おい、瑠花?どうした?」
斗哉の声に、私ははっと我にかえる。
「い、いや。別に何でもないよー」
「?そうか?」
「うん!ごめんね」

昼間はとても綺麗だった青空も、もう、暗くなっていた。