今日の授業が全て終了し、机の中の教科書を鞄に入れていると、ヒナが話しかけてきた。

「るか!あのさ、部活見学って何処に行く?」

ヒナの言う通り、今日から一週間、私達一年生は部活見学がある。
今のところ私は、吹奏楽部に見学に行く予定だった。
「私?私は、吹奏楽部に行くつもり!ヒナは?」
「あ、偶然だね!私も吹奏楽部に行くつもりなんだー」
「本当!?じゃあさ、一緒に行こうよ!」
「うん、いいよ!」
偶然にも見学先が一緒だったので、一緒に吹奏楽部の部室に向かうことになった。


「あ、あのさ、るか。」
「・・?なに?ヒナ」
吹奏楽部の部室に向かっている途中、急にヒナは真剣な眼差しを私に向けてきた。
私は少々戸惑う。

「・・るかってさ、斗哉って人、知ってる?」
斗哉。
私は、急に出てきたその名前に驚く。

「し、知ってるも何も、私の幼馴染みだよ?」
「えっ!お、幼馴染み、なの?」
「・・うん、そうだよ?」
急にヒナの表情が変わった。
私は、何がなんだか全く理解が追い付かない。

するとヒナは、
「そ、そっか!急にごめんね、何でもないから気にしなくていいよ!」
そう言って、走って行ってしまった。
「え、ちょっ、ヒナ!?見学は?!」
するとヒナは走っていた歩を止め、悲しげな表情で私に振り返る。

「・・ごめん。今日は、行けないや。また、明日」
そう言ってヒナは、また走り出した。
私はただ、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。

そして私に、ひとつの疑問が生まれた。

『ヒナ』は何故、
『斗哉』のことを聞いてきたのか?

「ー・・・・、ヒナ?」

そんな私の声は、誰かに届くことも無く、ただ消えた。