「どこ行く?…てかめちゃくちゃ可愛いじゃん!俺タイプだわ~!」


決まり文句のようにそう言った男の言葉を、

私はがん無視した。


そしてもう一度どこに行くか聞いてきた男に、

私は小さく、


「…ホテル」


と答えた。


それから男は吸っていた煙草を薄汚れた壁で揉み消して、

ピンクのネオンが輝くホテル街に向かって歩き出した。


横目で見る男の顔は、

とてもじゃないが整っているとは言い難い。


だが雰囲気や服装のおかげで、

だいぶましに見える。


まぁ、あそこに集まる大半の男は皆こんな感じだ。


「名前、何て言うの?」


「…茜雫(センナ)」


偽名が思い浮かばなくて、

咄嗟に昔の父親の浮気相手の名前を口にした。


それを私の名前だと信じた男は、


「茜雫ちゃんって言うんだ!俺は陽太(ヨウタ)だよ!」


と言って笑った。


そして陽太って呼んでね、と付け足して、

いきなり私の腕を掴んだ。


そのまま腕を組むように、

自分の腕を私の腕に絡めてきた。