先生が、こちらに近づいてくる。
私は腰を上げ、さっきから不規則なリズムで乱れる心臓を押さえて立ち上がった。



「――三枝さんが応援してくれなければ負けていました、ありがとう。
実はこのところ毎日放課後にシュート練習をしていたんだけど、やっぱり現役のバスケ部員に勝負を挑むのは無謀でした」



ばつが悪そうに、先生が笑う。



「毎日……って」



私にスポーツ大会まで放課後はずっと忙しいと言っていたのは、もしかして……



「そうまでして負けたらカッコ悪いからきみには内緒にしてたけど、実は頑張ってたんです。ほめてくれますか?」



そんな、ほめるだなんて……

私が先生に言わなきゃいけないのは、この一言だ。



「恩田先生、ありがとうございました」



私はそう言って、心からの笑顔を先生に向ける。

すると合わせ鏡のように先生も柔らかく微笑んで、こう言った。



「最高のご褒美ですね。三枝さんの笑顔は」



……まただ。また、心臓がうるさい。

きちんと先生の目を見たいのに、首が勝手にそれを拒否してぐりんと顔を背けてしまう。