観客は、私と有紗の他にも先輩の友達と思われる三年生たちが壁際でこの試合を観戦していた。



「曽川、少しは手加減してやれよ〜」



そんな軽い野次が飛ぶ。

彼らはみんな曽川先輩みたいにどことなくチャラくて、ボールを奪えない先生をバカにするような目つきで見ていた。


それを見ていたら私は腹が立ってきて、両手でメガホンの形をつくって大きく息を吸い込むと、思いっきり叫んだ。



「恩田先生!頑張ってー!!!」



先生も、先輩も、驚いてこちらを振り返った。

私は先生だけを見て、大きく手を振る。



「――勝利の女神が来てくれましたよ、もちろん、僕の」


「……ムカつくこと言うなぁ。後悔しますよ?俺に火をつけたこと」



再びボールを奪い合う二人。


床を蹴る、四つの素早い足音。


私はお祈りするように胸の前で手を組み、二人の動きを目で追う。



頑張って、先生……!


神様お願い、一瞬でいいから先輩に隙を作って……!