審判的な役割の男子生徒がボールを高く放ると、先生と先輩が同時に飛び上がってそれに手を伸ばす。
もちろん、背の高さに分がある曽川先輩がボールを手にした。
挑発するようにゆっくりドリブルをする先輩と、必死で隙を探す先生を見ながら、私はさっき有紗が教えてくれたことを思い返していた。
『――恩ちゃんがね、先輩に勝負を申し込んだの。先輩が十本シュートを決めるまでに自分が一本でもシュートを入れられたら、うちのクラスのマドンナにはもう近づかないで下さいって……』
私は、マドンナなんかじゃないけど……それを聞いて泣きそうになってしまった。
きっと先生は、この間の先輩と有紗のやりとりを見て……私の失恋相手に気がついたんだ。
でも、だからって。まさかこんな形で仇を取ってくれようとするなんて……
「――ああ!だめっ!」
有紗の悲鳴で我に帰ると、曽川先輩の投げたボールがゴールに吸い込まれる瞬間だった。
これで……あと二本。