その日の授業でわからないことがあって、私は帰りのホームルームが終わると同時に先生の元へと質問しに行った。



「先生、あの、今日の枕草子なんですけど……」


「ごめん、今日は杉浦くんの家に行かなきゃならなくて、急いでるんだ。明日の朝でも大丈夫?」


「あ、大丈夫……です」



杉浦くんというのは、うちのクラスの不登校の男子だ。

一年の頃、ひどいいじめに遭っていたと噂で聞いたことがある。

恩田先生はきっと、彼のことも私のように助けたいと思っているのだろう。



「先生」


「ん?」


「杉浦くん……学校に来れるようになるといいですね」



私が言うと、先生は目を細めて笑った。



「彼に伝えておきます。君を待ってるクラスメイトが居るって」



私も微笑んでうなずき、急いで教室を出ていく先生の背中を見送った。


……そうだよね。

先生はクラスのみんなを大事にしていて、岡澤の件が片付いた私の相手をしている暇なんて、ないんだ。


今まで自分にたくさんの時間を割いてくれていたことに感謝しつつ、どこか寂しさに似た気持ちが、すきま風のように心をぴゅうと通った。