お姉ちゃんが夕食にロールキャベツを作るらしくて、最近料理に興味が出てきた私は手伝うことにした。


まだ料理の技術的な手伝いはできないけど、お姉ちゃんが楽しそうに料理しているのを見て、自分もそういう気分になるのが好きだった。


「煮物はね、結構時間かかるけど、かければかけるほど美味しくなるものなんだよー」


「なるほどー」


お姉ちゃんがキャベツの下のほうに切り込みを入れ、芯を取ったかと思うと、あらかじめ水を沸騰させていた鍋に、丸ごと入れた。


「こうするとね、葉っぱが一枚一枚剥がれやすくなるんだよー」


「大胆な料理だ……」


少し時間がかかるということで、最近気になっていたことを質問することにした。


「ねえ、お姉ちゃん」


「なに?」


「一回羚弥君を抱きしめた時からかな、なんか羚弥君を見るたびに胸が締め付けられるというか、ドキドキしてね、苦しいんだよね。病気なのかな?」


「可愛いねー。それはね、恋だね!」


お姉ちゃんはピースサインをしながら、決めゼリフのようにそう言った。


「恋か……男性恐怖症なのに好きな人ができるなんて……」


「逆に今まで恋したことなかったの?」


「いじめばっかりでそういう気分にもなれなかったんだと思う」


「なるほどねー」


キャベツをひっくり返しながら、お姉ちゃんは少し目を細めた。


「何かあったら何でも言うんだよ?」


「うん。お姉ちゃんほどいい人は他にいないし、言われなくても頼りにしてるよ」


お姉ちゃんは笑いながら「そっか」と言った。


「実は私も男性恐怖症気味なんだよねー」


「え!?」


お姉ちゃんの突然の発言に驚いて、思わず大きな声を出してしまった。


「私さ、呑気に見えるでしょ?」


「う、うん」


「これね、今は完全にこういうキャラになってるけど、何年か前にワザと意識して定着させたんだよー」


「何で?」


「大好きだった人がいたんだけどね、その人が付き合って数ヶ月くらいの時かな、メールを送ってきたんだ。それにはね、知らない女の人の名前と、結婚しようって文字が書かれてて、後で間違いメールだったことを知ったの。ずっと騙されてたんだって思うと怖くなって、それから男性と目を合わせられなくなったり、酷い時には手が少し震えたりしてたんだー。そういうのをバレないようにしようと、呑気キャラを作ることを決めて、今までそれを通してたの」


だから結婚も……


「羚弥が来てから本当にそういうのは無くなってきたんだけど、まだ付き合うとかそういうのは考えたくないかな。あ、ごめんね、突然こんな話しちゃって」


「いや、大丈夫。お姉ちゃんも大変だったんだね」


「うん。さ! そろそろキャベツの葉っぱ剥がすよー」


お姉ちゃんの笑顔も今は切なく見えた。