目的の部屋に入ると、お母さんが駆け寄ってきた。


「優奈! ずっと心配したのよ……」


「お母様……」


明らかに高そうなネックレス、指輪、服を身につけて……やっぱり何も変わっていない。


「ところでそちらはどなた?」


お母さんが羚弥君を見てそう言った。


「遠矢羚弥です。優奈の友人です。今日はお話があって参りました」


「分かりました。それは食事をしながらゆっくり聞きましょう。さあ、こちらにいらっしゃい」


「ダメ!」


私は思わず大声でそう言った。周りが一斉に目を丸くして私の方を見てくる。


「食事をしながらだったらダメなの。お母様、私の想いを聞いてください」


「……分かった」


私は一度深呼吸をして、羚弥君を一目見た。


彼は大丈夫と言うように頷き、微笑んでくれた。


「私が家出した理由……変わらないって思ったからなんだ。お母さんが……」


お母さんの前で「お母さん」と言ったのは初めてだった。それについてなのか、家出した理由が自分だと知ったからか、お母さんは目を見開いた。


「私がいじめられた理由、お金持ちだからって前に言ったよね? あれね、お母さんは真に受けなかったけど、事実なんだよ? 筆箱やペン、靴もジャンバーも、何もかもが見ただけで高いと判断できるものばかりで、妬まれるのは当然だった。お母さんはそれが『羨ましい』に感じて心地よかったのかもしれないけど、私はそのおかげで辛い思いをしてきた。ずっとずっと変わってほしかったんだよ?」


お母さんを責めるのが辛くて、涙が出てきた。


「私ね、いじめなんか正直どうでもよかった。だから相談もしなかったし、お母さんがそれを知るのは懇談とかでしかなかった。でも、その度に転校転校で、ああ、またかってやるせない気持ちになるの。お願い、変わってほしい。お母さん、お金に頼りすぎる生活はやめてほしい……」


最後の方は泣きすぎて声になったか分からなかった。


「優奈……ごめんなさい。私が間違ってたわ……」


お母さんはそう言うと、指輪もネックレスも外し始めた。


ボディガード達が驚きの表情でお母さんを見る。


「全部、私のせいだったのね……私ね、本当は優奈が辛そうな表情してたの気づいてたんだ。その度に何買ってあげたら喜ぶだろう、何をしてあげたらいいかなって思い続けてきた。でも、そんなことよりも前に、優奈の気持ちを聞くべきだったのね……」


「お母さん……」


すれ違いだったんだ、私の想いと、お母さんの想い。


「ごめんね、優奈。お母さん、変わろうと思う。まずは……この家を売ろうかな……それを資金にして会社でも立ち上げようと思う。そして、ボディガードに執事、いろいろとやってくれた皆さん。これからはそういう仕事はしないでください。私、洗濯も料理も、母親らしいこと一度もしたことないから磨こうと思います。退職金を皆さんにお渡しします。今まで本当にありがとう……」


お母さんにつられてボディガードの中にも泣いている人がいるようだった。そのうちの一人が泣きながら言った。


「私、これまでこの仕事に着いて苦なんか一度も経験したことはございません。いや、むしろお役に立てて嬉しいとさえ感じておりました。よろしければ、これからはその会社の部下として働かせてもらえないでしょうか?」


その意見に次々と賛成意見が飛び交った。


「皆さん……ありがとう、ありがとう……」


お母さんは泣きながら笑った。


「俺、出る幕なくなってしまったな……」


「ううん、まだ」


最後に一つだけ、お願いが残ってる。