『二十四……』


羚弥君と真弓さんの会話をひっそり聞いていた私は、疑問が確信に変わった。


『やっぱり羚弥君って真弓さんの息子じゃないんだ』


以前から感じていた疑問は解けたものの、再び疑問が生まれ始めていた。


『何でお母さんって呼んでるんだろう』


その疑問が生まれてから数分後、真弓さんが私たちを呼び、朝食が始まった。


食べている最中、私は早速疑問を吐き出した。


「あのさ、羚弥君」


「ん、何だ?」


「羚弥君って何で真弓さんのことお母さんってことにしてるの?」


「え? んー……」


「息子じゃないんでしょ?」


「そうなんだけど……」


羚弥君が箸を止め、話をまとめようと思っているのか、考え込んでいる時、真弓さんが話に割り込んできた。


「私が言おっか?」


「ああ、うん。お願い」


羚弥君は考えることをやめ、再び食べることに集中し始めた。


「あのね、初めて出会った時、羚弥も由梨ちゃんと同じで私に対して敬語で話してたんだ。私ね、実はそういうの苦手なんだよね。学生の時も後輩にため口許してたし……だから羚弥にもそうしてって頼んだの。でもね、照れ臭いのか知らないけど『真弓』って呼ぶのが嫌らしくて、私の呼び方を羚弥は困ってたんだ。年齢差がそんなにないから『お姉ちゃん』とか勧めてみたんだけど、それも嫌らしくて結局『母さん』になったんだよね。育ての親みたいなもんだしってことでさ」


「なるほど」


「由梨ちゃんも敬語使わないようにしてほしいんだけど、いきなりは無理かな? 敬語使ってたらさ、仲良くなった気分にならないじゃない?」


「そうですね……いや、そうだね」


いきなり敬語でなくするのは難しいな、と思いながら私は苦笑いした。


「フフ、そうそう」


真弓さんも気持ちを理解しているのか、軽く笑った。


「こうなると確かに呼び方に困るなぁ。んー……」


「ニックネームなんかでもいいよー」


「んー……えー……んー……お姉ちゃんにする」


「オッケー。やっぱり女の子は違うねー。誰かさんと違って呼び方にかっこつけたりしないからねー」


「う、うるせえ」


羚弥君は少し顔を赤らめながらそう言った。


「フフ、じゃあこれからはそう呼んでね」


「はい……いや、うん」


私も思わず少し顔を赤らめた。


それから数分後、羚弥君は「ごちそうさま」と言って茶碗を洗い場に置き、鞄を持って家から出ていった。