ヒュオオオ


風の音がやけに大きく聞こえてきた。電線が空気との摩擦で発する「ビー」という音も聞こえてくる。


「やめなさい！ あなた何しようとしてるの！」


その音と共に、女性の怒声が耳に入った。その直後、ヒールが地面にぶつかる音がゆっくりと大きくなり、聞こえなくなった。


「こっちに来なさい」


今度は優しい声だった。


ビュオオオ


風がいっそう強くなった。どこからか小刻みな心臓の音も聞こえてきて、緊張感がはっきりと伝わってきた。


その状態が何秒か続いた後、再び足音が近づいてきた。そして、突然温かくなった。


今まで聴覚だけの世界に、温度覚が加わった瞬間だった。