時刻は二十三時となった。しかし、羚弥は宿題に追われ、就寝どころではなかった。


『ああ、めんどくせえな。何で漢字千回も書かなきゃいけないんだよ』


その宿題がある理由は単純だった。


羚弥が寝て過ごした古典の授業で漢字のテストがあり、受けなかったために追試となったのだが、羚弥以外の全員が合格したため、一人で追試は可哀想だと教師が見計らい、代わりに出された、というわけだ。


『あー、だっりー』


ひたすら書き続ける単調な作業。頭に入るはずもなく、羚弥は無心で手を動かしていた。


ほとんどが二文字の熟語だったが、時々出てくる三文字の熟語に羚弥は殺気を放っていた。


『ぬおおお!!』


午前零時となった。ついに最終段階に差し掛かり、羚弥は心の中で雄叫びを上げた。


それにより、先ほどまでだらだらと動いていた鉛筆が急に走りだし、見違えるようにてきぱきと働き始めた。


『あと十文字! あと九文字!』


知らぬ間に文字読みカウントダウンも始まり、羚弥の疲れていたはずの手がその感覚を忘れて高速になった。


『……あと二文字! あと一文字……よっしゃあ! 終わった!!』


一時間ほどの戦いがようやく終わり、羚弥は一瞬だけ喜んだ。そして一気に脱力し、鉛筆を放り投げた。


こうなると気づき始めるのが手の痛み、真っ黒になった小指の外側だった。風呂のついでに洗おう、と伸びをして、羚弥は部屋を出ていった。


最終的に寝る準備を始めたのは一時半だった。


明日の教材をバックに入れ、寝具を整えるといういつものことだったが、疲れと眠気のせいか羚弥な動きは遅かった。


こうしてまぶたを閉じた羚弥は、長い一日を終えた。