「カレーパーティー楽しかったな」


「そうだね」


真弓が全て企画、運営したカレーパーティーも無事に終わり、由梨と羚弥は飾りを片付けていた。


疲れがあるのか、二人とも動きは遅い。


「もう十時か。かなりやってたんだな」


携帯の時計を見ながら羚弥はそう呟いた。かれこれ始まってから五時間も経過していた。


「もうそんな時間なんだね。楽しいと時間が経つのって本当に早いよね。羚弥君の寝る時間まであと一時間ってとこかな?」


「そうだな。しっかし母さんは凄えよな。あのテンションずっとキープするんだもんな。俺にはちょっと無理かな」


「それは分かる。私もあんな風に明るく生きたいなー」


由梨は思わず過去の自分を真弓と照らし合わせた。


もともと心から楽しんだことがなかった自分。他人から避けられ、縛られた生活。真弓とは正反対だった。


『自分の全てを分かってもらえたら楽になるんだけどな。でも話したらこの家には……いられなくなるんだ。この家に生まれればなぁ……どれだけ楽しかっただろうか』


「ハァ……」


「ん? どした?」


まさかため息に反応されるとは思わず、由梨は少し焦った。


「あ、いや、何でもないの」


由梨はごまかすために軽く笑った。


『この家で生活できるのは……長くて一週間ってところかな。また男に襲われる生活をしなきゃいけないんだ。嫌だな……初めて安心して話せる男に出会えたのにな……』


「……?」


由梨は羚弥の気をそらすために、話題を作り出した。


「ねえ、羚弥君。そういえば携帯にアラーム機能とかついてないの? もしかしたら目覚まし時計の代わりになるんじゃない?」


羚弥は最後の飾りを取り外しながらその問いに答えた。


「ああ、それがだめなんだよな。なんかその機能壊れてて使えねえんだ。だから今日、普通の目覚まし買おうと思ってたんだけど、忘れてた」


「あ、そうなんだ。また怒られるかもね」


「そんなこと思い出させんなって! それより、やっと終わったぜ!」


羚弥は伸びをして大きく息を吐いた。由梨はその現実逃避がおかしくて思わず笑った。


「多かったねー」


「本当さ。一人で飾ったらしいし、相当大変だったんだろうね」


「そうだね。本来私のためだし……ありがたいよ」


「母さんは優しすぎるからな。いいとこに来たと思うよ」


羚弥はそう言って笑顔を見せると、持ってた飾りを捨てて自分の部屋に戻っていった。


由梨も部屋に戻りながら、心の中で羚弥に返事をした。


『分かってるよ、羚弥君。真弓さんだけじゃなくてあなたも優しいってこともね』