バン!
気持ちのよい音が教室中に鳴り響いた。
「いってええ!!」
思わず飛び起きた羚弥は、背中を叩いた張本人である学に怒鳴りつけた。
「何すんだ学!」
「お前が五時間目から帰りのホームルームが終わるまでずーっと寝てるのが悪い!」
それを聞いて信じがたかった羚弥は、瞬時に時計を見た。既に四時を回っていた。
「はぁ!? 俺そんなに寝てたの?」
「そうだよ! 時計見てまだ信じられんのかい。帰るぞ!」
もしかして、と羚弥は学が苛立っている理由を推測した。
「もしかして休み時間ずっと頑張ってた?」
「ずーっと起こそうと努力してたわ」
「ハハ、すまんすまん」
そういうことねと羚弥は納得した。
学が先に歩き出してしまったので、羚弥は急ごうとしたが、長い時間同じ体制で寝ていたのが原因なのか腕に痛みを感じた。
「ってえ……てか待てい!」
羚弥は走って学を追いかけていった。
学校を出た二人は、寄り道をしようとはせず、真っ直ぐ帰宅路に着いていた。
会話はなかった。怠いわけでも、気まずくなっているわけでもない。ただ、心のどこかで黒いスーツの男たちを警戒していた。
そのまま会話がないままいつもの別れ道へと到着し、二人はそれぞれの家へ向かうために手を上げて別れ、自宅までの道をただ歩いていった。
「ただいまー」
羚弥が家に着いたのは、それから十分ほど経った頃だった。
「おかえり」
「おかえり!!」
普段通りの由梨は特に気にならなかったが、羚弥は妙にテンションが高い真弓の様子が気になった。
「母さんどうしたの? そんなにテンション上げて」
その問いに真弓は満面の笑みを浮かべて答えた。
「今日は歓迎会だよ!」
『それって昨日やるべきじゃ……』
心の中で苦笑しながらも、羚弥は由梨の反応を見た。特に驚いた様子もなく、いつも通りの心からは楽しめていないような、尚且つ居心地はいいような、そんな素振りをしていた。その様子から、羚弥は乗り気ではないなと判断した。
「母さん、ちょっと言うのは悪いんだけど、今更何するの? 今日初めて家族の一員になったみたいな変な空気になるけど」
真弓の笑顔が一変して、しまったと言わんばかりの表情になった。
「な!? ほら、リビングとか廊下に飾り付けしたし、昨日作ったカレーもまだあるし。あとはゲームとかして盛り上がれば……」
「真弓さん、私も羚弥君と同じ考えですよ。だって、歓迎会なんかしたらもう一度他人に戻らないといけないじゃないですか。いや……他人なんですけどね」
「うっ……別にそんなつもりは……」
真弓はひどく落ち込み始めた。皆で楽しもうと思ってやったことが、まさか批判されるとは思っていなかったのだ。
一気に無気力になった真弓を見て、羚弥は少し反省しながら、ほぼ同じようなことを言った由梨の方を見て、その様子に気づかせようとした。
「由梨、そこまで言わなくても……」
「同情はやめて! ……もういいから、いつも通りの生活をしよう」
真弓は自分のことで気を遣われたり、自分が悪いのに謝られるなどの行為が大嫌いだった。
それからしばらくの沈黙が続いた。羚弥と由梨は黙って顔を見合わせ、お互いにこのままではいけないと悟った。先ほどまで満面の笑みを浮かべていた真弓が、あまりにも沈んでいる顔をしているのだ。羚弥たちはそれが何よりも嫌だった。
「……やっぱりやろうぜ。なあ、由梨? この家でパーティーみたいなことしたことないだろ? 歓迎会って名前じゃなくて第一回カレーパーティーみたいな適当な名前でやろうぜ」
「うん、そうだね。私ね、この家だけじゃなくて、人生でパーティーなんか一度もしたことないんだよ。だからわくわくしてるんだ」
「それなら尚更だ。な、母さん?」
「羚弥……由梨……」
真弓の悲しそうな顔が、再び笑顔に戻っていった。
「うん!」
こうして、パーティーは開催を迎えた。
気持ちのよい音が教室中に鳴り響いた。
「いってええ!!」
思わず飛び起きた羚弥は、背中を叩いた張本人である学に怒鳴りつけた。
「何すんだ学!」
「お前が五時間目から帰りのホームルームが終わるまでずーっと寝てるのが悪い!」
それを聞いて信じがたかった羚弥は、瞬時に時計を見た。既に四時を回っていた。
「はぁ!? 俺そんなに寝てたの?」
「そうだよ! 時計見てまだ信じられんのかい。帰るぞ!」
もしかして、と羚弥は学が苛立っている理由を推測した。
「もしかして休み時間ずっと頑張ってた?」
「ずーっと起こそうと努力してたわ」
「ハハ、すまんすまん」
そういうことねと羚弥は納得した。
学が先に歩き出してしまったので、羚弥は急ごうとしたが、長い時間同じ体制で寝ていたのが原因なのか腕に痛みを感じた。
「ってえ……てか待てい!」
羚弥は走って学を追いかけていった。
学校を出た二人は、寄り道をしようとはせず、真っ直ぐ帰宅路に着いていた。
会話はなかった。怠いわけでも、気まずくなっているわけでもない。ただ、心のどこかで黒いスーツの男たちを警戒していた。
そのまま会話がないままいつもの別れ道へと到着し、二人はそれぞれの家へ向かうために手を上げて別れ、自宅までの道をただ歩いていった。
「ただいまー」
羚弥が家に着いたのは、それから十分ほど経った頃だった。
「おかえり」
「おかえり!!」
普段通りの由梨は特に気にならなかったが、羚弥は妙にテンションが高い真弓の様子が気になった。
「母さんどうしたの? そんなにテンション上げて」
その問いに真弓は満面の笑みを浮かべて答えた。
「今日は歓迎会だよ!」
『それって昨日やるべきじゃ……』
心の中で苦笑しながらも、羚弥は由梨の反応を見た。特に驚いた様子もなく、いつも通りの心からは楽しめていないような、尚且つ居心地はいいような、そんな素振りをしていた。その様子から、羚弥は乗り気ではないなと判断した。
「母さん、ちょっと言うのは悪いんだけど、今更何するの? 今日初めて家族の一員になったみたいな変な空気になるけど」
真弓の笑顔が一変して、しまったと言わんばかりの表情になった。
「な!? ほら、リビングとか廊下に飾り付けしたし、昨日作ったカレーもまだあるし。あとはゲームとかして盛り上がれば……」
「真弓さん、私も羚弥君と同じ考えですよ。だって、歓迎会なんかしたらもう一度他人に戻らないといけないじゃないですか。いや……他人なんですけどね」
「うっ……別にそんなつもりは……」
真弓はひどく落ち込み始めた。皆で楽しもうと思ってやったことが、まさか批判されるとは思っていなかったのだ。
一気に無気力になった真弓を見て、羚弥は少し反省しながら、ほぼ同じようなことを言った由梨の方を見て、その様子に気づかせようとした。
「由梨、そこまで言わなくても……」
「同情はやめて! ……もういいから、いつも通りの生活をしよう」
真弓は自分のことで気を遣われたり、自分が悪いのに謝られるなどの行為が大嫌いだった。
それからしばらくの沈黙が続いた。羚弥と由梨は黙って顔を見合わせ、お互いにこのままではいけないと悟った。先ほどまで満面の笑みを浮かべていた真弓が、あまりにも沈んでいる顔をしているのだ。羚弥たちはそれが何よりも嫌だった。
「……やっぱりやろうぜ。なあ、由梨? この家でパーティーみたいなことしたことないだろ? 歓迎会って名前じゃなくて第一回カレーパーティーみたいな適当な名前でやろうぜ」
「うん、そうだね。私ね、この家だけじゃなくて、人生でパーティーなんか一度もしたことないんだよ。だからわくわくしてるんだ」
「それなら尚更だ。な、母さん?」
「羚弥……由梨……」
真弓の悲しそうな顔が、再び笑顔に戻っていった。
「うん!」
こうして、パーティーは開催を迎えた。