「…そういや、今日は陽輝と一緒じゃないな?」

「うん、ハルは何か用事があるって、学校帰りにそのまま街に行っちゃったんだ」

ハル…というのは、千草の弟で、千尋と双子の二卵性双生児。本名は陽輝(はるき)。

「へぇ、それは怪しいな、彼女かもな〜」

お返しとばかりに、千尋に詰め寄る。

すると慌てた様子で、

「ハ、ハルに彼女なんている訳ないよっ!」

声の高いトーンがさらに上がる。


「千尋っ!アンタ玄関先で何大きな声出してるのっ!?」

ガチャリ。
という音と共に玄関の扉が開き、顔だけを覗かせて言い放つのは、葵家の母。

「あらぁ〜、蓮クン来てたの?毎日悪いわねぇ、千草は今 部屋で寝てるから、勝手に上がっちゃって」

俺の姿に気付くと、その声は娘を叱咤するそれとは変わり、やけに弾む。
おばさんには、昔から、よくしてもらっていて、頭が上がらない。
それでも葵家の家族は皆一様に明るく、ここに来ると、こんな俺も随分と明るくなる。

「お邪魔します」

親しき仲にも礼儀あり。軽く頭を下げながら挨拶をして、中に入った。

その後を千尋が次いで入り、靴を脱ぎながらも何かまた話しかけてくるが、軽くあしらい二階へと階段を上がった。

相手をしてると、時間がすぐになくなる。子供のように、何度も同じ事を喋るからだ。
一人っ子で兄弟のいない俺には、千尋や陽輝は妹と弟のような存在で、一つ違いといえど可愛いもの。
…時には、五月蝿く面倒だけど…